夏姫たちのエチュード
          〜789女子高生シリーズ

           *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
            789女子高生設定をお借りしました。
 


   おまけ


お顔見合わせ、つま先で床をノックし、
さあ始まるよと、カウント数える。

  3、2、1、おー♪
  弾けるよ リズム、刻みましょ ビート。

かわいい女の子でしょ? 見て見てvvというよな
媚びるような、若しくは どーだと押しつけるよな主張や誇示はなく。
正直な話、スコアを追うので精一杯の彼女らで。
弾き慣れてる曲だと、余裕が出るのかお顔を上げるものの、
含羞むように えへへと微笑って見せた直後に
たいがいトチるのがボーカルのサッチの悪い癖。

そうそう派手なアピールやアクションはなく、
少女には大きくて重たそうなギターを抱え、
時々首を振ったり、体を弾ませてリズムを取ったり刻んだり。
ちょんと背中や肩がぶつかると、お顔見合わせて笑い合ったり。

伏し目がちになっての手元見下ろし、
爪が当たらないよう指先伏せて弦を奏でれば、
メロディ支えるしっかとした低音をベースが刻む。
肩先のコードを追って、指先をチラ見したかと思ったら、
弾みではらりと零れる後れ毛を擽ったそうにし、
かぶりを振って見せるのが、
ちょいとセクシーだということか甘い喚声が上がったり?

歌は全員が口ずさんでいるが、
サキソフォン担当のきぃちゃんは仕方がないとして、
ゆっこちゃんもまた時々サボる。
姐御肌だと思わせて、だけど、ホントはシャイな子で。
キーボードって忙しいからとあんまり顔も上げないの。
だから、お顔をぶんと振って髪を揺すり上げてる一瞬を撮った写メが、
ファンの間では途轍もないレアもの扱いになってるんだって……。





  「特にどこの誰だとも公表はしていなかったし、
   あの商店街の入ってたビルは、
   やっぱり一斉捜査が入ったんで、
   2、3日ほどは周辺もバタバタしていて。
   小さなライブの熱狂ぶりは
   一緒に盛り上がった人たちだけの
   一夜だけの夢になったはずでしたのに。」


練習ぽいメドレーばっかじゃなかったよ、
ちゃんとフルコーラスを何曲も演奏して、
バラードとかへも挑戦してて。
また聞きたいとか、
観られなかったから是非とも観たいってお声が随分と挙がっていて。

 「しかもそれが、
  ちゃんと女学園の方へと届いてたらしいんですよね。」

好感が持てるという声しか聞かないとはいえ、
あの女学園の子らしいよというのは、
どうやってそうまで洩れてしまったやら。
生活指導のシスターに呼ばれたというので、
宣伝なんてしてませんというの、私たちも証言しに行ったらば、

 『叱ろうと思って呼んだのじゃあありません。』

そもそも、そこでの練習は学園にも報告が出されておりましたしと、
二年生のお姉様がた3人もそれは聞いてなかったとキョトンとし。
うわさの演奏会を学園の方でも開いてはくれまいかと、
多数の方々からそんな打診があったのですが、
例年の学園祭でのステージとは別口の公演、
よければ引き受けてくれませんかという。
そんな呼び出しだったらしいことが判明して。

 「なぁんだって胸を撫で下ろしてたらば、
  あなたたちもメンバーだというのなら、
  同好会としての申請をお出しなさいって言われてしまって。」

そういえば、彼女らは久蔵へスカウトのお声をかけてもいて、
そっちのご縁もなくはなかったんですけれどもね。
2学年またぎですし7人いるなら、同好会への関門はクリア。
成程、そういやそうだと気づいたアタシたちを前にして、

 「…………彼女たち、どうしたと思います?」

テーブルへ身を乗り出したのは、
内緒話だと声を低めたからだったのだろうが。
白い細おもてがずいと寄って来たその拍子、
こちらの鼻先へまで届いた仄かに甘い香が立って。
ほんのりと化粧はしても香水まではしちゃあいなかろ、
髪か…若しくはシャンプーの匂いかと想いが揺れたのが、
丁度 訊かれたことを検討しているように見えたのか。
なかなか答えが出ないのを“うふふん”と、
自分の手柄を“どうだ参ったか”と誇るみたいに小さく笑い、

 「こちらが答える前に、
  彼女らのほうから
  “一緒に活動している訳ではありません”って
  言われてしまいました。」

もちろん、嫌われちゃったってワケじゃなくて、

 『シスターに言われてそれで、
  お姉様がたが断れないっていう、そういうのはヤだったんです。』

それであのあのと、あいちゃ…じゃない、ベース担当の篠崎さんが、

 「学園祭のミニライブ、
  一緒に舞台へ上がってもらえませんかってvv」

久蔵がゆっこちゃんへ、
シチもそういうの弾けるって言ったらしくって。
ヤですよねぇ、三味線とギターじゃあいろいろ違うのに。
今から猛練習しなくっちゃだと、困ったように言うけれど、
声音もそれから、
まだほんの少しほど、目元や口許へ幼い甘さの滲む端正な面差しが、
それは嬉しそうにほころんだのは、正直な心証を映してのそれだったに違いない。
そんな二人がついていた、
陽よけの幌の下の窓越し、ウッドデッキの向こうへ海を遥々と見渡せる、
洒落たカフェレストランの窓辺のテーブルへ。
随分と年下の連れがオーダーした、
秋の風にてゆく夏を惜しむクレープ、ハニーカクテルディップ添えが運ばれて来、

 “どの辺が秋の風で、どれがゆく夏なんだか。”

どう見ても…マロンアイスをくるんだクレープ5枚を
扇形に折り畳んだのをベリーで縁取って、
同じ皿の隅に蜂蜜ソースのかかったらしいホイップクリームが
ちょんと鎮座ましましてるディッシュセットにしか見えないがとか。
確か夏は、マンゴーとライチがメインの、
待望の夏に乾杯のクレープ、ハニーカクテルディップ添えじゃなかったかとか。
スィーツ相手に不毛な???を重ねていらした
壮年の警部補殿だったのはさておいて。
大捕り物にも方がつき、久し振りに非番となったため、
何処ぞかで逢おうかと勘兵衛の側から連絡をしての、
堂々のデートの真っ最中というお二人で。
人の機微を理解する、なかなかに小癪な子犬のシェルティが主役の映画を観。
ブランチにと創作フレンチとやらで食事をとっての、
今はティータイムというワケで。
待望のクレープを優雅にナイフとフォークで切り分け、
生クリームをちょっぴり添えて口許へと運び、
繊細な甘みとやらを堪能していたお嬢様が、つと、その白い手を止めて。

 「…勘兵衛様の苦労、少しは判ったような気がしました。」

いきなり畏まってそんなことを言う。
こちらはこちらで、芳醇で香りも豊かな、
久々に上等なと実感出来たコーヒーを味わいつつ、

 「? 何だ? 薮から棒に。」

いざ事件へと向かい合うときは鷹のように鋭い双眸を、
和んだ温みにたわめつつ問い返す勘兵衛で。
今回は さすがにひやっとさせられたものの、
自分が警察関係者であったればこそのギリギリで、
何とか助けることも出来たことゆえ。
お転婆な元副官に振り回されるのはもう慣れたがと思っておれば、

 「こうと見通し、筋道立てて把握して、それへの対策も立てて。
  なのに、どんどん不安も込み上げてくるんですよね。
  もしかして読み間違ってないかとか、
  思い違いをしてないか、見落としはないかって。」

今回はヤクザ風の不審者相手。
危険度も微妙だったので、それでというのもあったんでしょうが。
これでも随分とドキドキしておりましたと、本音をちらり。そして、

 「こんなものじゃあない、
  多くの兵士の命を懸けた、
  戦いの策を練っておられた勘兵衛様ですものねと。
  それを今更思い知らされたんですよ。」

唐突に持ち出されたのが、選りにも選って最も苛酷だったころの記憶で。
ついつい返す声さえ憚られ、むうとばかりに黙ったままでおれば、

 「勘兵衛様のように揺らがずにいるのって、
  よほどに据わった肝が要ったんだなぁと。」

今頃 気がついても遅いのですよね。
でも、あの頃はわたくし、
そういう大事なことがちゃんと判っていたんでしょうかねと。
自分の心根のことだのに、それこそ自信がないものか、
小首を傾げて“う〜ん”と思い出そうという所作をして見せて。

 「………七郎次。」
 「はい。」
 「溶けてしまうぞ。」
 「あ…はい。」

思い出せないのが残念で、なのか。
う〜んとと口許とがらせたまま、
それでもデザート用のスプーンを手にクレープと向かい合うお嬢さん。
そんな屈託のない様子を見つつ、
どこにあっても出会えるというなら、
今度こそは大事にしたいし、
次の“生”とやらでも護りたいとは思うのだけれど。
あのような修羅場に、この子を再び置きたくはないなと、
そんな本音を、なのに当の本人へ言ってはやれないでいるところ、
なかなかに進歩のない島田勘兵衛へ、

 「あ、そうそう。ヘイさんが言ってたんですが。」

ふと、向かい合う美少女が、何の気なしに続けたのが、

 「佐伯さんが勘兵衛様のことを話に出すときに、いつも一拍空けるんですって。」
 「………っ☆」

島田警部補とか警部補とか、
どっちにしたってそうそう呼びにくいとも思えないのに、
一拍は大仰かもですが、
口を開けてから微笑って誤魔化してから“警部補が…”と話し始めるのが、
何だか妙な癖だなって。

 「もしかして、職場ではあだ名で呼び合ってるんですか?」
 「いやまあ…そんなこともあるのかな?」

あ、じゃあ佐伯さんたら、
勘兵衛様にも内緒で妙な呼び方しているのかもしれませんよ?
気をつけなければ、なんて。
先程までの真面目な話はどこへやら、
最高のギャグでも聞いたかのよに、
それは他愛なくもころころと笑い出したお嬢さんなのへ、

 “……まあいいか。”

こちら様も苦笑が止まらぬ、勘兵衛様であったそうな。







    〜Fine〜  10.08.27.〜09.03.


  *同じ事件が何度も出て来てすいません。
   でもね、同じご町内とか同じ駅周辺とかいうエリア内で、
   そうそういろんな事件が毎週とか毎月とか周期で起きてたら、
   警察の面目丸つぶれ…じゃあなくて、
   何か呪われてんじゃないかって話の1つも出そうじゃないですか。

  *それはともかく。
   毎回毎回、男勝りな大暴れをご披露して来たお嬢様がたですが、
   たまには怖い想いもするんじゃなかろかと。
   今回は そういう展開をもって来てみました。
   前世での活躍や戦いへの勘はあっても、
   あくまでも少女の体力しかないってこと、
   ちょみっとほど体感するよな事件にも、
   触れといた方がいいんでないかいということで。
   そういえば、久蔵殿は手を掴まれて
   “びくうっ”という拒否反応をしたことがありましたしね。
   ゴロさんからも言われて、反省はしたようですが、
   これで懲りるような可愛い人たちならいいんですけれど……。


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